君が為に日は昇る
「慌てて出兵しなかったこと、吉と出ましたね。」


所変わって暗闇に包まれる廃寺。


聞こえるのは遠く響く花火の音と虫の歌声。そして彼らの話声だけだ。


かつては人々が拝み、崇めたであろう仏像を二人。真田と上条が眺めている。


「掴んだ情報から幕狼隊は間違いなく富水に来る。私の命を狙ってね。」


煙草の煙を吐き出しながら真田は憂鬱そうに呟いた。


「彼らを抑えれば我々に勝利は大きく傾く。必ずここで潰します。」

「俺らの兵力は四百ぐれぇか…。数は上だが狼相手にするにゃ厳しいぜ。」


憂鬱そうなのは上条も同様で首を捻り何やら一生懸命思案している。


「仕方ないですよ。諸藩の増援の準備は時間がかかる。人数が人数ですし。」


真っ白な煙と溜め息を吐き出しながら真田は苦笑した。


「加えて増援は狼の討伐が済まないと動かない、か。やだねぇまったく。」


上条もまた眼に手を当てながら苦笑する。


「天ヶ原は東雲、富水には私達。それぞれで何とかするしかないですよ。」


決して芳しくない状況。だがそれでも何とかせざるを得ないのだ。


真田は灰になりかけた煙草を足で揉み消した。


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