君が為に日は昇る
「なぁ真田よ。」

「ん?」

「夜太坊、死なせたくねぇなぁ。」

「さてね。」

「おぉ?冷たいじゃねぇか?」

「生きるか死ぬか、それは全て彼が決めることです。我々が悩んでどうなるものではないですよ。」

「そうか…。そうだな。」

「願わくば…。」


━彼が最後まで戦い抜き、生を掴まんことを。





それぞれの思いを抱えながら、富水に朝は来る。


朝を迎え、街は慌ただしく動いていた。


荷車を押し、街を離れる人々。そして見送る侍達。


これから始まる戦に備え、非戦闘員である民は南にある集落に避難することになっていた。


真田側が破れれば保証される場所ではないが。


勿論、避難する民の中にはお雪やお稲婆も含まれており、最後まで夜太や真田らの身を案じていた。


そして街から音が消える。


残った侍達はただ一様に街の東を見つめる。


今日か明日か、決して遠くはないだろう宿敵、幕狼隊。


その到着を待ち詫びるかのように各々が精神を研ぎ澄ませた。


激突の時は、近い。


『其の参、太陽と月』



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