君が為に日は昇る

『其の壱、天地の争』

「…素晴らしい!」


大久保は歓喜に打ち震えていた。


圧倒的な兵数。下馬評も幕府側に優位とされていたこの戦。


蓋を開けてみれば我が軍が快進撃を続けている。


歩兵、騎兵、鉄砲隊、砲撃隊。全てに置いて連合軍が上回っている。


「勝てる…!勝てるぞっ…!」


大久保は心の中で自軍の勇猛さを讃え、自慢の髭を涙で濡らした。


彼は元々、戦場に立つような人間ではない。


地方藩主の長男として生まれ将来を嘱望されてきたが剣の腕はからきしで気も弱い。


周囲からは虚弱で無才な男だと馬鹿にされ、虐げられてきた。


しかし彼には他より秀でた才能があった。


それは勉学。


彼は幼い頃から誰よりも勉学に励んできた。


政治学、言語学、医学、商学、工学、農学、蘭学。並べたてれば数えきれない程の知識をその脳に叩きこんできた。


時に勉学の虫だと馬鹿にされ、根暗だと罵られ、それでも彼は腐ることはなかった。


全ては民の為。


郷里は元々裕福ではない小さな藩。民も皆貧困にあえぐことは幼い頃から当たり前のように見てきた。


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