君が為に日は昇る
目の前で飢える民。病魔に蝕まれた人々。何も出来ない貧しい藩の経済情勢。


このか細き腕では、狭き肩では、枯れ木のような足では、誰一人救えぬ。


だが勉学を身に付ければ必ず民に役立つ。


それだけが彼を突き動かした。


彼は誰もが認める藩主となったが貧困にあえぐ民は自らの藩だけではない。


だからこそ彼はここに立っている。


異国から兵器を輸入し、兵達に使用法を教えた。


東雲の手足となり全国を飛び回り連合軍を作り上げた。


全ては腐敗した幕府を討ち滅ぼし、民を救うその為に。


もしかすると連合軍において民を最も愛したのはこと大久保という男だったのかもしれない。


「むぅ…!」


長年の夢が叶う。民が救える。


押し続ける勇猛果敢な連合軍。彼らを指揮する頼もしき東雲の背中。


堪えきれなかった。とめどなく流れる涙が頬を伝い足元に滑り落ちていく。


「…民よ。見えるか。そこまで、もうそこまで近づいているぞ…。」


涙を拭うことは出来ない。まばたきすら勿体無い。


「我らの明日が…。我らの念願がもうそこまで…。」

「大久保殿ぉぉぉ!!」


不意に、彼の視界が赤く染まった。



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