君が為に日は昇る
「ぐ…は…!?」

「残念だが…。そう易々と叶えさせる訳にはいかぬのだ。」


背中に走る激しい痛み。目の前に広がる鮮血。


膝をつき、地に伏せる。そこで大久保は自分が肩から腰にかけて斬りつけられたのだと気付いた。


「な…何者、…っ!?」


顔を上げた大久保の前に真紅の羽織に身を包んだ男達。


「幕狼…だとぉぉ…!?」


何故彼らがここにいる。彼らは真田を討ちに富水に向かってたのではなかったか。


「我々は別動隊でな。少数で後方に回らせてもらったよ。」

「馬鹿な…。勝利を目前に…。」

「東雲と大久保、天ヶ原はこの二人さえ潰えればあとは所詮烏合の衆。」

「ここで貴殿らには消えていただく。」


およそ十名に満たない真紅の羽織。無念さが滲む。駆け寄ってくる東雲の姿が霞む。


大久保の意識は既に朦朧としはじめていた。


━すまぬ民よ。私は結局虚弱で無力であったか。


━ああ、いけない東雲殿。冷静さを欠いては。こちらに来てはいけない。


「…ああああああ!!」


か細い腕に、枯れ木のような足に、全力を込める。


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