君が為に日は昇る
「東雲殿ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」


這うようにしながら立ち上がり、大久保は吠えた。


背中から流れ落ちる血。薄れいく意識。痛みはもう感じない。


━もう私は死ぬだろう。


近づく東雲は足を止め大久保をしかと見据える。


「む!?いかんっ!離れろっ!!」


反応したのは真紅の羽織を纏う中にいる一人。


大久保の手に握られたのは、手榴弾。導火線には既に火がともる。


「大久保殿ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」


東雲もまた咆哮した。


━神が私に侍として生きる時間を下さったのだ。


邪魔をしてはならない。目を閉じることは許されない。


今、友が戦おうとしている。


今、友が逝こうとしている。


友の死様を、侍の死様を、男の死様を、この眼に焼き付けるのだ。


━民よ。愛する民よ。私が死すとも、私の意思は死なぬ。

━あの男が、東雲殿が、我が友が。

━きっと。

━さらば。愛すべき。

━この国よ。


瞬間、轟音と火柱が響き渡った。


「おお…!!おおおおおおおおおお!!!」


東雲は初めて、誰かの為に涙を流した。



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