君が為に日は昇る
感傷に浸る。そんな時間があればどんなに幸せだったろうか。


だがそれは許されない。


「…見事。」


目の前の、真紅の羽織を纏う男がそれを許さない。


「大久保誠。見事なり。」


あの爆発の中逃げ延びたのは最初に反応した男。ただ一人。


「侮っていた。彼もまた武人なのだな。」


燃える草むら中、東雲と対峙する。


「東雲様っ!ご無事ですか!?」


騒ぎを聞き付けた部下が馬に乗り走ってくる。戦を指揮する将兵の一人だ。


「っ!?」


彼は驚愕した。幕狼隊がいたことも勿論、だがそれ以上に。


「東雲…様?」


東雲の冷徹な表情が彼に恐怖すら覚えさせていた。手綱越しに馬の震えも伝わってくる。


「お前に戦は任せる。このまま攻め落とせ。」

「は、はい!」

「それと。…しばらくここに誰も近づけるな。すぐに戻る。」

「…はっ!」


彼は反論すらせずに元来た道を引き換えしていく。


反論すれば命を失う気がしたのだ。


炎の熱か、陽射しの暑さか。東雲の眼は既に渇ききっていた。


風に吹かれ舞い上がった炎が見惚れるような中性的な顔立ちを照らし出す。


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