君が為に日は昇る
「やけに大久保殿を褒めるな。」

「武人は武人。幕府も連合もない。後ろから斬りつけた隊士に変わり謝罪しよう。」


冷徹な眼を向ける東雲。先程から凄まじい殺気を放っている。


しかし眼の前の男は動じていない。それだけで彼が並の使い手でないのが解る。


「敬意を払う。自らと引き換えに我らを道連れにしようとした。」

「見事だ。」


顔の土を拭う。武士らしい清閑な顔立ちをした男。


「私は幕狼隊総長、奥村空也。」


「東雲栄馬。もし貴殿に会ったら聞きたいことがあった。」


不気味なまでに礼儀正しい男。
無理をしている素振りが見えない所を見ると本当に性格なのだろう。


「貴殿は、何故剣を振るう。」


かつて真田が夜太に問うた言葉。東雲の戦う理由。それは至極単純な理由。


「己の為。己が野望を叶える為に。」

「野望とは?」

「新しい国を作り上げ平等な世とすること。」


平然と言い放つ。一点の曇りの無い瞳。何一つ迷いなどない。


「そうか。」


と、短く言葉を返すと奥村はゆっくりと刀を引き抜く。


「つまり如何なる理由をもっても倒幕は避けられぬ訳だな。」


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