君が為に日は昇る
「ああ。避けられないね。幕府が看板下ろすなら、別だけどね。」


東雲もまた刀をゆっくりと引き抜く。身の丈ほどもある長身の刀。


━…大した男だ。


奥村には東雲が眩しく映って仕方がなかった。


━大久保殿も、覚悟は出来ていた。

━本当は戦場に出るような人じゃない。新しい世の担い手になるはずの人だった。

━民を思い兵を思い、だからこそ戦場に立った。

━戦友達の願いを果たさねばならない。


その眼から、口元から、雰囲気から、伝わって来る確固たる意思。


強く新時代の到来を願い、自らの手でそれを切り開こうとしている。


大久保の意思、いや恐らくは過去に散った同胞の意思すらも。


全てを背負い、乗り越え、そしてまた戦おうとしている。


━こんな男が、男達が、まだこの時代にいたのか。


決して気押されてはいない。負ける気などは毛頭無い。この男討ち取らずして幕府の明日はない。


これこそが最大の好機。


━それこそ我が意思…!


奥村が刀を正眼に定め構える。同時に辺りが張り詰めた空気を纏い出す。


「奥村空也。参る。」


今、天ヶ原で狼の一撃が放たれようとしていた。


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