君が為に日は昇る
言葉と同時に狼は大地を蹴る。


卓越した脚力で一足、東雲に接近。その間合いは一瞬で詰まった。


生まれた加速を刀に乗せ、放つのは鎖骨を狙った上段から打ち下ろす袈裟斬り。


風を切り裂く研ぎ澄まされた狼の爪。


猛然と迫る刀を前に、東雲は僅かに横に動く。狙うは技を出し終えたその時。


己に爪が届く寸前の位置でそれを避ける。そこはまだ間合いの中。


相変わらず構えは取らない。左足を前、右足を後ろ。腰を回転させる。


上半身の力を刀に乗せ、放つのは心臓を狙った平突き。


生まれる閃光。


瞬時に反応した奥村はその脚に全力を込め斜め後方、間合いの外へ飛び退く。


避けた後に奥村は錯覚した。その一撃が自らが居た場所を通り抜けた時、全てが消しとんだのではないかと。


━何という剣か。これが稀代の剣豪、東雲平馬。


刹那の攻防。それだけで奥村の額には大粒の汗がいくつも流れる。


しかしそれはまた、東雲も同じことである。


━強く、速い剣を使う。流石に幕狼ということか。


そして互いに思う。


『この男、一筋縄でいく相手ではない。』


それでも二人は再度間合いの中へ向かう。


< 113 / 211 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop