君が為に日は昇る
空気は、震撼する。剣を交える二人の居場所がまるで別世界のように。


東雲の剣は舞い遊ぶかのよう。次々と形を変え相手に襲いかかる。


太刀筋、腕の振り、体捌き。全てにおいて一見滅茶苦茶。


しかしそれでいて酷く洗練され、見るものを魅了するような動き。


例えるならば、雲。


奥村の剣は基礎を積み重ねた物。淡々と刻む斬撃が相手を襲う。


太刀筋、腕の振り、体捌き。全てにおいて手本通り。まるで教科書を見るかのよう。


重厚。濃密。鍛錬の結果が頭から爪先までの五体全てに行き渡った動き。


例えるならば、大樹。


「ふっ!」


東雲は小さく息を吐き腕を振るう。


右と見せかけ左。下と見せかけ上。


細かに跳躍し、位置を変え、自由に。縦横無尽に剣を走らせた。


宙に刃が舞う度に小さく火花が散る。


━最小限の動作で俺の剣を捌くかい…。やるなぁ。

━む…!滅茶苦茶な太刀筋でこれほど正確に急所を狙うか!


対する奥村は足に根を這わせたように一歩も動かない。


視線は一点。東雲をじつと見据えたまま冷静に剣を捌き続ける。


━今度はこちらから行かせてもらう。


奥村が仕掛ける。


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