君が為に日は昇る
疾風よりも速く迫る中段の片手突き。


それを、崩した。


突き出された刀の上に刀を乗せ、力を加え後方に引っ張る。


自らの力以上に勢いがついた東雲は堪えきれない。


体勢を崩し、無防備な状態で奥村の懐へ。


━…お?

━散れぃっ!!


構えは上段。大木のような腕に浮き出る血管。地面ごと砕かんと振り下ろす一撃。


首筋に迫るのは死への感覚。


だがそれを避けるのは、天性の勘。


体勢が悪い。剣を振るうことは難しい。この状態で東雲は。


「がぁっ!?」


足を出した。


鋼鉄の如く鍛えられた奥村を腹筋を踏みしめ、安全圏まで跳躍。


火の残る草むらの中、華麗に着地する。


人外と言っても差し支えないだろう反応速度。


「危ない危ない。」

「………………!!」


東雲の冷笑。奥村は戦慄する。


━あの状態から…。避けるだけでなく斬撃を…。


刻まれた横一文字。薄皮一枚ながら切り裂かれた胸が赤く染まる。


━なんと素晴らしい技量か。これほどの腕に巡り合うことは二度と無い。

━我が生涯、最後の相手にふさわしい。


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