君が為に日は昇る
人々は笑顔に溢れ、誰もが豊かに暮らし、争いなど無い平和だった時代。


それも全て前の将軍の政治手腕によるものだった。


それは彼の死後、現在の将軍に変わるまでの話。


彼が亡くなると国は乱れた。幕府は急速に力を失う反面、年貢などをあげ民を苦しめ始める。


役人は汚職にまみれ、将軍は贅の限りを尽した。


世に幕府討つべしという倒幕思想が生まれたのもこの頃の話。


奥村は将軍家とも親しい有力武家の出。元々、前将軍の近衛兵として勤めていた。


前将軍は彼の剣才を高く評価、息子のように可愛がる。


しかし実の息子であった現将軍はそれを良く思わなかった。


現将軍が即位すると同時に彼は近衛兵を解任されたのだ。


奥村は幕狼隊に入隊。将軍家のお抱え剣士はただの一兵隊に成り下がる。


ただこれは奥村にとっては好都合なことであった。


それは病に臥した前将軍最後の言葉。


━幕府を、頼む。


主君が下した最後の命令。


常に前線に立つ幕狼隊。その中にいれば。


「幕府に仇なす者をこの手で葬ることが出来る。」


奥村は、曇りなき眼で東雲を見据えていた。


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