君が為に日は昇る
「確かに今の幕府は腐敗している。欲に目がくらんだ愚者の巣窟とすら言えよう。」

「だが、だがそれでも私は、主君に授かった最後の命を貫き通す。」


自然と腕に入る力。熱を帯る言葉。


「例えどんな腐敗していようと、力が無くなろうとも、あの御方が愛した幕府に変わりはない!」


全ては今は亡き主君へ思い。


「愚かだと、笑うかね?」

話を終えるように息をつくと、彼は自嘲気味に笑う。


解っているのだ。己一人あがいたところで幕府は変わらないことも、もう時代に己のような男は必要なくなっていることも。


それでも。


「笑わないよ。俺は笑わない。」


東雲が彼を笑うことはなかった。


古臭いと言われても愚かだと言われても、全て解った上で奥村は戦うのだろう。剣を振るうのだろう。


忠義。ただそれだけの為に。


「あんたは、素晴らしい男だ。幕府側にこんな人物がいるとはね…。」


━連合にこないか?


尊敬に値する男。出来れば戦いたくはない。


東雲は喉まで出かかった言葉を飲み込む。


「ありがたい。貴殿と話せてよかった。」


この男だけは侮辱したくない。心からそう思っていたから。


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