君が為に日は昇る
胸に刻まれた横一文字をそっと撫でる。この傷は誇れるものだ。


生涯で最も敬愛出来る男に刻まれた傷なのだから。


「さて、長話になってしまったな。…やろうか。」

「ああ。」


そして再び互いに剣を向け合う。


奥村空也。構えは上段の構えより遥か大きく大上段。


大樹は季節を越え、その葉に鮮やかな花を咲かせる。


東雲栄馬。構えは無形。右の手に握り締めた刀を足元に垂らす。


雲は雄大に、美しく、純白の身を魅せ付ける。


あまりに威風堂々とした二人。


何人たりとも、間に入ることは許されぬだろう。


草むらを燃やしつくした炎。渇いた風が運ぶ焦げた香り。


恐らく次に放つのは全てを賭ける渾身の一撃。


間合いを間違えてはならない。失敗は即、死に繋がる。


徐々に、徐々に、その間合いをつめていく。


渇いた風の中に存在を主張する張り詰めた空気。痛みを覚える程に互いの殺気が攻めぎあう。


━東雲殿。貴殿とは違う形で会いたかった。

━俺もだ。もし違う形であれば。

『友に成り得たかもしれぬな。』


風が静かにその呼吸を、止めた。


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