君が為に日は昇る
━将軍様。我が主よ。見ておられるだろうか。申し訳ありません。

━私は、奥村は、今、この男の手に敗れ、貴方様のお傍に参ります。

━私を笑われるでしょうか。それともお叱りになるでしょうか。

━しかし私は、胸を張って答えることが出来るでしょう。

━私は時代を変えた男に、挑み、敗れたのだと。


心の中、今は亡き主君を思い返す。沈痛な面持ちで眺める東雲。


「ああ。貴殿も早く手当をしなければなるまいな。すまぬ。」

「いや、構わないさ。…言い残すことは、あるか?」

眼を閉じれば蘇る、戦い抜き、忠義の為に生きた我が生涯。


ふと、奥村は自分が笑みを溢しているのに気付き、また苦笑した。


「…東雲殿。」


一気に脇差しを突き立てる。僅かに残った力で腹を十字に斬り裂いていく。


「新たな時代を生きてくれ。そして。」

「ありがとう。」

「…御免っ!!」












遥か前方に見える戦場。どうやら大勢は決したらしい。


敗走を始める幕府軍。追撃をかける連合軍。


あちこちであがる黒煙。風が運ぶ血の臭い。


連合軍は、天ヶ原を制したのだ。


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