君が為に日は昇る
「…大久保殿。見ているかい。」


左腕の付け根に巻かれた白い包帯は激戦の痕を物語る。痛みの残る肩にそっと手を当てた。


東雲は一人、友の散った場所に足を運んでいた。


見れば、かつて戦場となった場所で兵達が酒を飲み、歌い、騒いでいる。


「我々は勝ったぞ。残るは天府のみだ。」

「もうすぐ時代が変わる。変わるんだよ。」

「民が理不尽に苦しむことの無い時代になるんだ。」


本当は泣きたくて喚きたくて仕方がなかった。

しかしそれを兵に見られれば士気に関わる。彼の立場はそれを許さない。


左腕が無くなったことよりも、友の為に堂々と泣けぬこと。


それが何よりも痛く、苦しくて仕方なかった。


「大久保殿。俺は最後まで戦うよ。」

「例え両腕が無くなり、足が千切れ、眼が潰れても。」

「命がある限り戦う。そしてあんたの夢見た時代を実現して見せる。」

「だから、だからさ。戦いが終わったら。」

「戦いが終わったその時は。」





「泣いても、いいだろ。」









『其の壱、天地の争』





< 124 / 211 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop