君が為に日は昇る
四百の兵の前に立つ一人の男。


兵達の将、真田虎春である。


真田はゆっくりと兵達の顔を見渡す。


一人、また一人としっかりと顔を見据える。


恐らくあと数時間も経たない内にこの中の半数は、死ぬ。


それは自分も、上条も、夜太も。皆、例外ではない。


戦とは、そういう物だ。


何度も経験したこと。共に戦場に立ち、隣で戦っていたものが次の日には物言わぬ屍に成り果てている。


それが当然の事。


だからこそ、彼は兵達の顔を見つめた。誰一人忘れてなるものかと。


「まもなく…。」


真田が口を開く。そして静かに、そして淡々と話出した。


「まもなくこの富水は、幕狼と我々の決戦の地となります。」

「皆さんよく意を決し、共に戦うことを選んでいただきました。」


「ありがとう。」


静かな街に響く声。


兵達は真田の顔を見据え、話に耳を傾ける。


「もし我々がこの戦いに負ければ諸藩は手のひらを返し、幕府側につくでしょう。」

「そうなれば連合は総崩れ。新たな世を作るという夢は閉ざされるでしょう。」

「だからこそ、我々は勝たねばならない。」


徐々に熱が籠っていく、言葉。


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