君が為に日は昇る
挙がる右腕。


それが前に振り下げられた瞬間。


怒号が飛ぶ。大地を震わす。


走り出した三百の狼。


手にはそれぞれ得物を携え、真紅の羽織をなびかせ、富水へ猛進する。


「…いいのか。お前はいかなくて。」


「まだ、まだ待つ。今出たら…。」

「味方ごと刻んじまいそうだからな…。」


閑散とした草原。残る二匹の狼は群れの背中を見送るだった。





「来た来たぁ!来やがったぁ!」


慌ただしく走って来たのは見張りの男。


一気に張り詰める緊張感。


「…そうですか。では手筈通りに。」


多くは語らない。もう言葉は必要ない。


後は迎え討つのみ。


散々になる兵達。果たして再び集まることが出来るのだろうか。


━政次、夜太君。頼みますよ。





富水入口に集まった狼は眼を爛々と煌めかせ口々に怒声をあげる。


それもそのはず。入口付近にいた男。


「上条!上条がいたぞ!」

「討ち取れ!奴を討ち取りゃ大金星だ!」


それは誰もが狙う大物の首。興奮しないわけがない。


「来やがったなぁ!?薄汚ねぇ犬っころどもが!」



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