君が為に日は昇る
眼前に差し出された新鮮で美味そうな肉。狼は入口を通り富水になだれ込む。


戦いにおいて重要な要素の一つである、冷静さを欠いて。


「挨拶変わりだ!犬っころ!」


差し出されたのは肉ではない。鉄の塊。円柱の形をした筒。


大きな口を開き、傍らにぶら下げた紐には赤い火を灯している。


定める狙いは、富水の入口。狼の群れ。


「た、大砲っ!?」

「退避!たい…!?」


果敢にも先陣をきっていた隊士は後ろを振り返り愕然といた。


次々と進軍を続けてくるのは状況に気付いていない後方の隊士。


既に入口は塞がっている。今から退くことは不可能。つまり。


「ひっ…」


回避も不可能。


「喰らっとけ。」


筒は真っ赤な火を吐き出し、眼をくらませる閃光を放つ。


轟かせる爆発音。放たれた火の玉は先陣の隊士に命中。


それは、鮮やかな炎の花を咲かせた。





「花火…か。綺麗じゃねぇか、真田。」

「兵器はないが花火はある。一本取られたなぁ陸野?」


草原から富水を見つめる二匹の狼は、苦笑を浮かべその戦況を見つめていた。


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