君が為に日は昇る
祭り用の花火といえど火薬には違いない。


それは狼の先陣に甚大な被害を与える。


既に物言わぬ屍となった者。深刻な火傷を負い戦闘不能に陥る者。


形は様々だがその数、十数名。


連合側の奇策は見事に成功となる。


「幕狼の進軍止まず!入口付近の壁を登り侵入してきます!」

「よーし!散開するぞ!捕まんなよお前ら!」


出鼻をくじかれながらも進軍を続ける幕狼隊。


上条は付近の部下に退避指示を与える。散々になり街に逃げ込む連合兵。


それは市街戦始まりの合図だった。






「ったくよー!損な役回りだぜ!」


大きな足音をたて巨躯に似合わぬ全速力で駆ける。上条は一人愚痴を溢した。


後ろから迫る十人程の狼達。


先程の花火がもたらしたのは被害だけではない。花火で攻撃するという挑発による怒り。


その形相はさながら般若の如く憤怒に染まる。


逃げる上条も必死である。


しかしおかしなことがある。


足音と気配を消すことに秀でた上条が何故大きな足音をたてて駆けるのか。


それは彼が囮であることに他ならない。


上条が逃げ込んだのは古びた長屋の通路であった。


< 134 / 211 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop