君が為に日は昇る
「お前らは手を出すなよ。そこで見物していろ。」


新海に呼応してにわかに殺気だつ幕狼の面々。それは狼の右手一つで静まりを見せる。


「貴方達も、ここは私に譲って下さいね。」


同様に静まりかえる連合の面々。得物に手をかけていた者はゆっくりと手を下ろす。


彼等はこれから証人とならなければならないのだ。時代の局面の。


そして勝敗が決した時には、その後の人生を語り手として生きていく。


たとえどちらが勝ったとしても。たとえ、どちらが生き残ったとしても。


それが残される者の義務なのだから。


「御託を並べるのは嫌いでな。早速いかせてもらおうか。」


動くのは、新海。


彼の身体が、沈んだ。


小気味良い金属音と火花は速さの証明か、それとも力の証明か。


小さくたたまれた右腕が広がり、そして消える。


恐るべき速さはその得物ごと、彼の腕を闇に溶かしていた。


再び腕と刀が現れたのは、真田の横顔。どうしたことか、二人は動きを止めていた。


なぜならば真田の刀もまた、彼の喉元寸前に迫っていたからである。


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