君が為に日は昇る
「これを、合わせるか。」


額を伝い、眉間を流れ滑り落ちていく冷たい汗。


もう半歩でも踏み込んでいれば喉元の刀は首を貫いていたに違いない。


「一撃で、決めるつもりだったんですがね。」


酷く渇いた喉を鳴らし、唾液を飲み干す。


刀を抜くのが一瞬遅ければ今頃首と胴体が斬り離されていたのだろう。


したし今にも肌に触れそうな刃を前にして、二人はまだ動かない。


否、動けないのだ。


互いの手から、身体から、刃から、ひしひしと伝わる確かな殺気が教える。


動けばそこを狙うと。


「嫌な相手だな。」


「お互い様でしょう?」


舌打ちながらに苦笑いを見せる新海。にこやかな微笑を返す真田。


隙らしい隙はない。機会らしい機会もない。僅か一太刀という短いやり取り。


その中で真田は新海を。新海は真田を讃えたくなった。


強い。沸き上がる感情を心中に押しとどめる。だが、認め合うことなど出来ない。


微動だにしない二人の間を熱気にあてられた生温い風が通り抜けていく。


幾ばくかの時が経った。


それでも二人は動くことはない。


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