君が為に日は昇る
その刃の尖端は鼻先で測ったように止まった。


踏み込み、腕の伸び、刀の長さ。射程距離は解っている。新海の眼はそう言わんばかりに真田を居抜く。


対して真田も涼しい顔でまるでかわされることなど解っているようだ。


だがそこからが圧巻だった。


新海が撃ち込めば真田がかわし、真田が撃ち込めば新海が捌く。


聞こえるのは僅かな衣ずれの音と、風を切り裂く小気味の良い音。


静かな空間。鮮やかな戦い。それは事前に打ち合わせをしたかのよう、まるで演武のように。


これが達人と呼び差し支えない者、剣の高みに居る者の戦い。


観客は皆、見惚れているのか微動だにしない。


ここは舞台。やがて終幕を迎えるその時。それまで二人は剣を振るう。


最後に舞台に残る一人を決める為に。


そして終幕の合図は余りにも突然に、決められていた時をもたらす。


それは回避動作をとった時だ。


疲労からか、それとも不運からか、大地に足を絡め取られ、膝をつく。


まさに好機。無論その隙を逃すはずがない。逃せば不運は己にも襲いかかるだろう。


爆発的に高まる殺気。


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