君が為に日は昇る
不運に絡めとられたのは、真田。額から大粒の汗が流れ落ちる。


━っ…!

━…殺った!


既に刀は鞘の中。準備は整っている。後は抜き、斬る。その二動作を残すのみ。


━この一撃!全力をもって叩き付ける!


回避は不可能。例え真田が防御に刀を差し出したところで刀ごと叩き斬る。


鬼が如き形相。右足を前へ、大地を堅く踏みしめる。左手で鞘を握り、右手に注ぎ込むのは渾身の力。


「がぁっっっっっっっっっ!!」


そして咆哮する狼は抜刀した。これ以上ない、会心の一振りだったであろう。


型、立ち姿は見るもの全て魅了し、抜刀の速さたるや人智を越えている。


それは、至高の抜刀術。


振り抜いた刀。刀身が描く美しい曲線が弾き返したのは純白の月明かり。


それが、赤に飲み込まれていく。鮮やかな赤に。


季節外れの桜のようにゆっくりとそして静かに舞い落ちる真紅の花びら。


「…終りか。」


とうに限界を迎えた腕、足腰、短く吐いた言葉が震えている。


「最後など、呆気の無いものだ。なぁ真田?」


小さく鍔を鳴らし、刀を納める。それがもう抜かれることはないだろう。


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