君が為に日は昇る
守るものは心に勇気を与え、同時に心の逃げ場を作り出した。


明確な実力差がある相手。それと幾ら対峙したところで揺るぐことのなかった彼の心が。


彼の生涯においての宿敵で、最も強いだろう男の一刀によって。たかが一振りでいとも簡単に揺るがされたのだ。


━ああ。なんともつまらねぇ。


うろたえ逃げ惑うる彼を追いながら陸野は苛立たしげに舌を打つ。


━期待外れも良いところだ。余りにも無様。余りにも脆弱。


狙いを定め、下段。刀を袈裟に振り上げる。


━上達したのは逃げ足の速さぐらいじゃねぇか。


回避されるのが解るとすかさず追撃。横薙に刀を振るう。


━あん時、喰っちまえばよかったか…。


再び回避されても追撃は終わらない。息もつかさぬ猛攻は続く。


━興ざめだな。


必死に逃げ回る獲物。しかし、逃げの一手はいつまでも続かない。


━もういいや。


小石につまづいたのか、転倒した夜太。その先にある民家の壁に激しくぶつかる。


逃げ場は、ない。


━斬っちまおう。


大上段。振り上げ、叩き落とす至高の一刀。














轟音と、鮮血が朝焼けの空に舞い上がった。



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