君が為に日は昇る
━何処だ?

━俺は何処にいるんだ?


暗闇から突如として飛び出す幾千の刃の雨に脅えながら、彼の心もまた闇に堕ちようとしていた。


━もう駄目だ。俺はここでこの男に斬られ果てるのだ。


頭に浮かぶのは諦めの言葉。それでも未だ回避を続けているのは身体に染み付いた鍛錬の結果か、それとも生にしがみつく本能か。


どちらにせよ、彼の眼に反撃するという選択肢は映っていなかった。


━すまないお雪。すまない。


情けない。まったく己の脆さに反吐が出る。


━どうやら生きて会うことは叶わぬらしい。


こんなにも弱い男であったか。こんなにも女々しい男であったか。


━どうか、どうか許して欲しい。

━俺は、弱いんだ。


諦めは、遂に彼の五体をも染めあげた。


戦場を駆け回り、回避を続け、酷使してきた足。


踏ん張りがきかず大地を滑り転倒。その勢いのまま民家の壁にぶち当たる。


━お雪…。


暗闇の中に現れたのは巨躯で禍々しい姿の狼。その眼は冷徹に、そして侮蔑するかのように彼の姿を見下している。


━おゆ、き…。


瞬間、彼の身体を紅連の炎は切り裂いた。


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