君が為に日は昇る
━…退がらされた。


陸野は小さく舌を打つ。体勢そのままにでも力で強引にねじ臥せるつもりであったが。


━この気迫。全盛期と変わらねぇじゃねか。


冷えた唾液が喉を通り抜けていく。


「侮るなよ。」


喜八はゆらり、柳のように立ち上がると陸野を再度睨みつける。


「貴様らに剣を教えたのは誰と思っとる。」


砕けた鞘を投げ捨て、口角を歪ませる。


「この陸野喜八。貴様の親父様ぞ。」


そう、この喜八こそが陸野歳揮の実父。そして源五郎、真田の剣の師でもある男。


「源五郎も虎春も、剣じゃあ貴様に敵わんかった。しかし、奴らは大事なもんを受け継いでくれよった。」


白刃を肩に。構えは上段。


「剣は私欲の為に振るうべからず。弱き者を守る為に振るうべし。」

「志じゃよ。歳揮。貴様にはそれが無い。」


同様に陸野。鈍色の刃を肩に。構えは上段。


「あまつさえこの子まで手にかけようとするか。この、愚か者が。」


喜八は未だ意識の戻らない夜太に視線を向ける。


決して殺気のない慈愛に満ちた暖かい視線。


それは暖かい、暖かい眼だった。


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