君が為に日は昇る
「くだらねぇ御託は終わりか?ならそろそろ斬り合おうや。」


言葉など入らない。一度は萎んだ殺意は、更に強大になって膨れ上がる。


「なぁ。貴様は俺を楽しませてくれるのか。爺。」


獣の皮をかぶった鬼が一匹。


「もう一度言う。侮るなよ。小童が。」


人間の皮をかぶった鬼が一匹。


二匹が剣を振るったのは同時であった。


それはいような光景とも言えた。姿形は違う。年も体躯も違う。


構えも、速さも、剣の軌道さえがはっきりと重なる。


これが親と子の戦いというものなのだろうか。


しかしそこにあるのは明確な殺意を孕んだ必殺の刃。そこに容赦などは微塵もない。


ぶつかり合った金属製の鍔が激しく音をたてて火花を散らす。


「かかっ!随分と腕をあげたようじゃの!」

「うるせぇ老いぼれ…。」


陸野は困惑した。力では自分が圧倒的に上のはず。


━ならば何故動かない。


目の前の老人が頑強な岩の如く。全く動かないのだ。


「なぁ覚えとるか。」


ふと、岩は消え眼前に現れたのは柳。


「貴様がわしに一度も勝ったことがないことを。」


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