君が為に日は昇る
即座に追撃をかける喜八。振りきった刀を再び上段に引き戻した。


━我が息子ながら反応がいい!流石に一筋縄ではいかんわ!


と、同時に再び振り下ろされる刀。風を切り裂き、後ろに避けた陸野の頬肉を削ぎ落とす。


━まだまだ行くぞ馬鹿息子!


更に追撃をかける。柳のようにしなやかで鋭い動きはとても老体が繰り出すそれではない。


反撃の隙間すら与えぬほど激しく尚且つ、巧妙。


喜八には誰もが持ち得る力や技だけでない、経験と言う大きな利があった。


圧倒的劣勢。しかしこの状況下にありながら、陸野の頭の中は一つの感情に埋めつくされていた。


━楽しい。


眼前を殺意の塊が通り抜ける度。


━楽しいっ!


身体に傷が刻まれる度。


━楽しいぞ!!


高ぶる感情。


━もっと追い詰めてくれ。

━もっと痛みを与えてくれ。

━もっと、殺意をぶつけてくれ。


気が付くと陸野は構えを解き、刀を持った腕をだらりとぶら下げていた。


傷つくことより、死ぬことより、命を晒し出すこと。それは彼にとって。


「さぁ爺…。早く俺を殺してみせろ。」


何よりも快感だった。


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