君が為に日は昇る
夜太。齢十五の夏のことである。





『二、森に隠れ住まう者』




あれから二年の月日が流れた。


少し背丈の伸びた夜太の体つきは逞しく成長。
短かった黒髪は長く、後ろで束ねる程になった。


「今日も暑くなりそうだな…」

ポツリと呟き、彼は釣り上げた魚を網で出来た袋に入れた。
釣竿を肩に携え、岩場から軽快な足取りで飛び降りる。

「今日も大漁だねー!おばあちゃんが待ってるよ!早く帰ろー!」

夜太が歩き出した方向では、美しい女性が手を振り待っていた。


黒く艶やかな髪は腰まで届き、白く透き通るような肌が陽射しをはねかえす。


二年前よりも成長し、より女性らしくなったお雪がそこにいた。


「迎えに来てくれたんだ?」

「うん!あ、袋持つよ!重いでしょ?」

「いや別に…」

「いいからよこす!」


━彼女の明るさは昔からずっと変わらない。あんな事があったっていうのに。
強いな。


「わかった!わかったから!じゃあ釣竿を持ってよ。魚は重いからさ。」

「はーい!」


━今、俺が生きていられるのも彼女のおかげだ。


━あの時、彼女に止められていなかったら。
俺はもうこの世にいないだろう。
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