君が為に日は昇る
突き上げる、様々な感情。それは雷に打たれたかの如く。


陸野の全身の頭から爪先迄余すことなく駆け巡った。


それは実父を葬り去った背徳感。強者に勝利した優越感。


自らこそが最強と信じ疑わない自尊心はより確固たるものとなる。


渇ききった砂に落ちた一滴の水。それこそがこの男にとって何物にも換えがたい快感。


「はっ…あぁ…!」


彼は自らを鎮める為に深く息を吐く。


まだ終わっていけない。まだ満たされてはいけない。


熟れすぎた果実はやや味が落ちる。だがまたすぐ傍に絶好の収穫の時を迎えた果実が実っているではないか。


「さぁ起きろ餓鬼。貴様を喰らわなければ俺は満たされん。」


そうして彼が青年が眠る場所に眼を向けた時であった。


「…何故、貴様がそこにいる?」


そこに立つのは旧く、懐かしい。幼少を共にした。


かつて友であった男の姿。


━久しいな、歳よ。


それは過去と変わらね姿、声。優しい瞳。


「…源五郎。懐かしい幻覚だな。」


彼は揺らぎかけた心を落ち着かせながら男を睨みつける。


━お前も変わらねぇな。相変わらず強さに酔っていやがる。


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