君が為に日は昇る
━実の父親迄手にかけやがって。


源五郎は酷く悲しい表情を喜八の亡骸へ向ける。その顔に再び心が揺らぎ出す。


眼前の男は確かにこの世に存在しない。それは知っている。


「…亡霊が。俺を地獄へ誘いにきたか。」


ならばこの汗はなんだ。この胸の鼓動はなんだ。


━そうしてやりたいのは山々だ…が、それは俺には出来ねぇ。


落ち着け。よく考えろ。俺が対峙すべきは誰だ。


━なぁ。あん時は楽しかったよ。虎春がいて、お前がいて。


彼奴はどうした。彼奴が何故いない。


「おい貴様…。餓鬼はどうした?」


陸野は苛立った。先程までの至福の時が嘘のように。


この男の顔がそうさせる。


互いに競い合った、幼少。最期まで彼が男に敵うことはなかった。


好敵手と言われながら常に二番手であった劣等感は、未だに己を縛りつけている。


「餓鬼はどうしたっ!源五郎っ!!」


ならばこの鎖を断ち切る方法は只一つ。


「貴様の息子を斬り、貴様の傍らに添えてやる!」


男の最高傑作を叩き潰すこと。


━もう終わりにしようや。歳。


瞬間、彼の背筋に電撃が走った。


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