君が為に日は昇る
その時、陸野は戦慄を覚える。


刀をぶら下げ柳のように脱力した立ち姿。うつ向きその表情を伺い知ることは出来ない。


━違う…。全くの別人だ。


しかし無様に逃げ惑っていた面影は何処にもない。


「餓鬼…化けたか。」


身体の震えが止まらなかった。それは歓喜の鼓動。


与えられる絶望。死地へ近付く恐怖。彼が纏う気配は物語る。


だが陸野はそれらの全てに快楽に似た、心地よい空間を見る。


「来るか…!」


今度は此方の番だ。そう言わんばかりに気配は徐々にその影を伸ばしてきた。


「随分と、長く眠っていたようだ。」


傍らに眠る名も知らぬ老人。


「俺なんかを守ってくれて、ありがとう。」


夜太は彼の傷付いた身体を見た後、深々と一礼をした。そうしてから陸野に向き直る。


「待たせたな。」


身体には羽根が生えている。先刻迄の重さが嘘の様で。


血液は水。まるで静かに緩やかに動く様で。しかし時にそれは強く、激しく。


内に秘めたる獣が暴れまわるが如く。


「さぁ再びお相手願おうか。望み通り俺はお前を裂く剣となる。」


この身を、焦がす。


< 196 / 211 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop