君が為に日は昇る
「言うじゃねぇか。」


再び戦闘態勢に入ったか。陸野が纏う空気がより濃く、より強いものへ一変していく。


形容するならばまさに狼。牙を刀と変え、生まれた快楽を殺意と変え、空気は張り詰める。


「だが残念だ。貴様も爺同様地獄に送ってくれるわ。」

陸野は野太刀を上段へ。ゆっくりと大きな構えを取る。


「拾った命だ。それも悪くない。」


対する夜太は正眼に剣をおいた。その刃の切っ先は狼の心臓にしかと狙いを定めている。


「だが地獄への旅路。お前にも付き合ってもらう。」

「くくっ。御免だな。」


それは幾年月、共に過ごした友と語る。そんな姿さえも浮かぶかのように笑う二人。


本当に最期になる。これはどちらかの死をもってしか終り得ない闘い。


その時を惜しむかのように、だが急かすかのように。満天の星空に雲が走る。


━さぁ、行け。


優しく背中を押す声が頭に響く。


━大丈夫だ。


自然に身体に力が巡る。不安が消える。


「行くよ…。」


一歩。ゆっくりと踏み出した一歩。


軽く、しかし重く。脚はふわりと風に乗り、大地に降り立ちそして根付く。


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