君が為に日は昇る
━ああ。そうだ。


そうか。この身体に流れているんだ。


━お前が生きてきた全てが。


全身を巡る、喜び、怒り、哀しみ、楽しさ。


━その身体の隅々に迄な。


幻は優しく笑う。


「来い…!!」


狼は喜び唸る。


━この男にぶつけよう。全てを。ここで終わりにする。


足を、前へ。


━さぁ…行け。


轟音。土煙。


これが観衆を前にした立合いであれば。
観衆の全ては感嘆の声をあげざるを得なかったであろう。


一度駆け出せばもう止まらぬ。全てを焼き斬る蒼き刃。その姿、まさに雷神。


一撃、稲妻が如く。


低空を滑る蒼き光が唸りをあげる。下段から突き上げる刃が狼の喉元を狙う。


「むっ…!」


しかし蒼き刃は狼の牙によって阻まれた。


鉄塊がぶつかり合う小気味良い音と共に、狼は口から小さく息を漏らす。


「ふっ!!」


だが雷鳴は再びその声を轟かす。


幾度も幾重にも縦横無尽に走る蒼き刃は狼を焼き尽くさんと迫り来る。


━ほう…!?


稲妻に囲まれたような錯覚を得て、狼は感嘆に胸を踊らせた。


━裁きの雷といったところかな…!


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