君が為に日は昇る
━だがこの程度。


迫り来る雷雲。狼が喉笛を鳴らす。
剥き出した重厚な牙が妖艶に輝けばそれは一撃の知らせ。


━噛み砕いてくれる!


踏み出した足が大地を揺るがす。振り上げた腕が空気を切り裂く。


その一撃。目の前の全てを断ち切る。


何かが弾けたような音。雷鳴が止まった。


大上段から叩き落された牙の衝撃。火薬が爆発したとすら錯覚する。


身体を傾け回避した夜太を狼は喜々として見つめる。


「はははっ!」


この重厚な刀。連撃は叶うまい。普通ならば誰もがそう思うことであろう。


しかしこの男にそんな祈りに等しい願いは届かない。使うは誰より重く、振るうは誰より速く。


凡百の剣士とは違うのだ。


狼は高らかに吠えながら既に次の挙動に入っている。


だがそれは夜太も同様。回避と同時にして構える。


連撃など許してなるものか。勢いに乗せれば手が付けられない。


手を止めることは即座に死をもたらすだろう。


ならば飛び込むのみ。この狼の牙の嵐に。燃え盛る業火の海に。


「はぁぁぁぁっ!!」


心を奮い起たせ、雷神もまた吠える。


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