君が為に日は昇る
━あの時。頭領、いや父を殺された俺は怒りに我を忘れていた。




【二年前、黒間の山中】





黒間の山に銃声が木霊する。それは彼の理性を奪うに充分で。


彼は崖を離れ、元来た山道を引き返すべく駆け出していた。


━殺してやる。


例え命を落としたとしても。元より源五郎に拾われた命。惜しくはない。


━殺してやる。


何人でもいい。源五郎を殺した。父を奪った。奴らを道連れにしてやる。


━殺してやる!


復讐。彼の思考はこれだけに支配されていた。


譲り受けた刀の鞘を握り締める。
怒りに身を委ねた彼は瞬く間に元来た山道へ。
お雪や女衆の前に踊り出た。


「夜…太?」

「ひっ!」

木の影から出てきた夜太の姿に彼女達は一瞬の錯覚を見た。


鬼が現れたと。


お雪は言葉につまり、女衆は小さく悲鳴を上げる。


それほど夜太の殺気には凄まじいものがあった。


彼女らのことなど目に入らんとばかりに、再び駆け出す夜太。


その前に両手を広げ、お雪が立ち塞がる。

「夜太。行かせないよ。村には戻らせない。」


彼女の肩は恐怖に震えていた。初めて見る夜太の姿に。
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