君が為に日は昇る
先手を取ったのは速さで勝る、夜太。


低い姿勢のまま身体を左右に激しく動かし狙いを絞らせない。


放たれるのは急所めがけての片手突き。さらにそれに幾つもの擬餌、連撃を織り混ぜた針鼠のような技。


それはまるで視界が刃の雨に埋め尽されたかのように。狼の喉笛に風穴を開けようと迫る。


━…速い!全ては見切れん…!…だが。


狼は重厚な刀で身体の一部を防御。巧みに足を動かし刃の雨をかいくぐる。


鉄が一層強く、濃厚に香る。


刃が身体の間近を通り過ぎる度に刻まれる赤い線。


しかしたかが薄皮一枚。構うものかと雷雨の中を突き進みながら反撃の狼煙をあげる。


「ぬるいっ!!」


それは全てを焼き尽す、地獄の業火を纏う。刃の雨を霧散させながら頭上より落ちる巨大な鉄塊。


瞬時に捻る身体。すぐに真横を絶望が通る。が、回避。


━技を放った直後。


狙うはその僅かな隙間。あれだけ強く振り降ろした一撃。次撃は遅れざるを得ない。


距離は充分。刀を握る右手に力を籠める。


後は、撃ち込むのみ。


━待て。夜太。


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