君が為に日は昇る
再び頭に響いた懐かしい声。身体が、硬直する。


その直後だった。


逆袈裟。右頬を霞めた地獄の業火が肉を削り取る。


「っ…!?」


突如として現れた鉄塊。焼け付く痛みに意識を戻した彼は、やむを得ず再び距離を空ける。


━危なかった…。


心の中で自らを戒める。


侮るな。相手は凡百の剣士ではない。


この男であればこそ、あの重厚な野太刀をああも軽々と振り回せるのだ。


壱の太刀が通じないならば弐の太刀。通ずるまで振るい続ければ良い。


例え両の腕が斬り落とされようとも。両の脚がへし折れようとも。


この男さえ此処で葬り去ることが出来れば良い。


単純なことだ。


一通り思案した後、夜太は再び刀を構える。目の前には腹を空かせた巨躯な狼。


「どうした?また臆したか?」


挑発的に笑うそれを彼はしっかりと見据える。


「さあ。どうだろうな。」


気持ちは不思議な程、落ち着いていた。


思い出す。黒間の急先鋒として過ごした少年の日々を。


思い出す。こうして、父と背を合わせ戦い抜いた日々を。


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