君が為に日は昇る
記憶は鮮明に。まるで昨日のことのように駆け巡る。


「ならば覚悟するが良い。次は此方からいかせてもらう!」


一足、狼は野太刀を振るう。速く、鋭く、強靭な牙。上段から大地ごと叩き割らんと迫り来る。


それでも彼は微動だにしない。刀を垂れ下げ足元に切っ先を残す。


「っ!?」


━そうだ。全てが夜太、お前の中に宿っているんだ。


その時、狼の眼に映るのは夜太の姿ではない。


━真田…!


旧く懐かしい、映るはあの真田虎春の姿。


その手は刃の背。加速する野太刀にかかる重力。安定を失った刃は夜太の横を通り抜けていく。


「っ…!?」


最早、刀を戻すことは出来ない。勢いは止まらない。眼前には近づく雷神の刃。ならば回避するのみ。


身体をのけぞらせやや強引に刃を避ける。それは若干の誤差。


右瞼の上に熱い痛みが走る。


「くっ!?」


弾け飛ぶ赤が空に舞う。浅く長い傷が刻まれる。


「はぁっ!!」


逆に夜太の身体に走る衝撃。腹部にめり込んだ脚に思わず大きく後退する。


彼は激しい嘔吐感を堪え狼を睨みつけた。


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