君が為に日は昇る
それでも彼は止まらない。再び構えを取り、いざ狼狩りと迫る。


━くっ。血で視界が…。


瞼から流れ落ちる血に、狼が距離を取ろうとしたのはある意味では正解だったのかもしれない。


後退した場所を通り過ぎる雷神の刃。一撃をかわされた勢いで彼の身体はぐるりと回転する。


━先程の構えは…!


微笑む、幻。


「源五郎かっ!?」


気付いた時、狼の身体には既に刻まれた赤い線が一つ。


自らの技による回転を利用した水平斬り一閃。横一文字に傷が走る。


その奔放な技は源五郎のそれに酷似していた。


再び舞い上がり空を染める赤。


「ぐっ!?」


全身を駆け巡る痛み。だが致命傷ではない。顔を歪めながらも狼はその牙で雷神に喰らい付く。


「があっ!!」


痛みを堪え、苦悶の表情を浮かべ、周囲の全てを薙払う鉄塊を振るおうとする。


しかしその先を、迎え討つ刃が行く。


━この構え、この太刀筋。これは…!


「俺の…!剣か…!」


布を破くような音と共に、赤が夜空に舞う。


幾度となく、赤が空を染めあげていく。


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