君が為に日は昇る
揺れる度、その身体の赤を散らす。吠える度、空気が震える。


狼の眼は再び爛々とした輝きを見せ始めた。


そこには今までと違う色。生に対する執着を映す。


━勝つ。必ず勝って生き延びる。


手負いの狼が選んだのは、大上段。自らが最も得意としる構え。


鉄をへし折りその身ごと大地を叩き割る必殺の牙。


━ここに来て…。


より一層洗練されている。夜太はそう彼を分析した。


余裕を捨てたことか、もう身体に残る力が僅かなのか。力が抜けた構えは酷く自然で隙がない。


━手負いか…。


幾通りも思い浮かぶ攻め手。しかしどれもこれもが最悪の結果で終わることを描かせる。


「ふっ…。」


そこで夜太は軽く息を吐くことにした。気分を落ち着けたかった。


思い浮かぶ大切なもの。己が身を包む大切な人。


すると何となく、本当に何となくだが。


何故だか負ける気はしなかった。


「あんたが選んだ修羅の道は、ここで終わる。」


ふわりと跳びはね、身体を揺らす。四肢によどみなく行き渡る力。


「狼。あんたに生は似合わない。」


そして夜太は大地を蹴った。


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