君が為に日は昇る
女衆の一人がお雪の肩に手をやり、夜太を睨みつけた。
目に涙が浮かべ、お雪の肩に添えた手はわなわなと震えている。


━俺だけではないんだ。


周りを見回す。
女衆も老人も子供も涙し、手を握り締めている。中には手から血を滴らせる者すらいる。


━俺は、愚かだ。


戻りたくて。男衆と共に死にたくて仕方なかっただろう。それでも、彼女達は生きようとしていた。


彼等の思いを無駄にしない為に。


「夜太…?」


━それが貴方の思いならば。父さん。お雪は守ります。


夜太は踵を返し、お雪を抱き起こす。もう殺気は帯びていなかった。


「ごめん。行こうお雪。俺はもう大丈夫だ」

「…うん!」


そうして再び彼等は山道を歩き出した。


二人は山を下った所で皆と別れた。
女衆はお雪の事を頼むと夜太に頭を下げ、彼もそれにしっかりと頷いた。


それから二人は何日も何日も休むことなく歩き続ける。
幼い彼等には厳しい道のりだったがここでもお雪の明るさがそれを支えた。





━ずっと頼りっぱなしなんだよな。


隣で釣竿を振り回しながら歩く美しく成長した女性。
彼女を見て、夜太は思わず微笑みを溢していた。
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