君が為に日は昇る
━来るか?


夜太の額に汗が光る。
右手に持つのは鉈(なた)と呼ばれる短い得物。
自然と力が籠る。


彼の前に一つの影。
影は機会を伺うかのように足を踏みしめ、彼との距離を詰める。


━来た!


影は一瞬で夜太に接近。その刃で彼を貫かんと飛びかかる。


それを夜太は冷静に見極め影の横に周り込む。
そして首元に狙いを定めると鉈を思いきり下から上に振りきった。





「ブキィィィ!!」


影。猪は大きく悲鳴を上げ、しばらく暴れた後に動かなくなった。


「よし!久しぶりに肉が食える!罠を見に来たら猪に出会えるなんて今日はついてるぞお雪!」


森に暮らす夜太達の食生活は山菜や木の実、川魚が中心。


運よく動物に会えない限り肉などとは縁遠い生活をしていた。


久しぶりに仕留めた猪に彼は歓喜し、興奮気味にお雪に声をかける。


すると近くで様子を伺っていたはずのお雪がいない。まさか。と彼は罠がある場所に目を向ける。


見事に罠の一つ、落とし穴かかったお雪が助けを求めもがいていた。


「夜太ー!助けてー!早くー!」


お雪は動物用の罠によくかかる。夜太はお雪を助けながら大きく溜め息をついた。
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