君が為に日は昇る
ここに来た頃は何度も何度も復讐を考え、眠れぬ夜が続いた。


しかしここでの生活はその感情を掻き消す程の幸福感を彼に与えてくれた。


「猪を狩ったのかい?こりゃあ今夜は猪鍋だ。腕を振るわなきゃいけないねぇ。」


お稲婆は優しく本当の孫のように彼を扱ったし、生まれの事や二人が何故ここに来たのかで彼等を問いただすような真似はしなかった。


「私だって猪狩り手伝ったもんねー?猪見つけたのだって私なんだよ。」


お雪は持ち前の明るさで彼の荒んだ心を癒した。彼女がいなければ彼はきっと修羅に堕ちていたに違いない。


幸せだった。満たされていた。これ以上望むものなど何もないと思った。


二人を守り、この生活が守れれば彼はそれでいいとすら考えるようになった。


しかし運命はあまりに非常で、残酷で、再び彼を戦火の中に呼び戻すことを望むのだった。
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