君が為に日は昇る
それだけ言うと彼は家を再び飛び出していく。


二人は夜太の迫力に呆然とする他なく、森に消える彼の後ろ姿を見送っていた。





森の木々をすり抜けるように駆けながら、彼は思案していた。


━間違いない。この匂いは…。


しばらく先を見れば強い光。森が途切れる。『紅葉の森』の出口だ。


━血と火薬の匂い!


出口に近づく前、彼は、器用に木の上に登っていく。


このまま枯れ草の地面を駆ければ足音が出る。それは極力避けたかった。


木の枝を飛び移り、慎重に森の出口を目指す。


この先は広い平野『紅葉平野』になっている。


━やはり。戦。


木の枝に身を潜め、夜太はその凄惨な光景に顔をしかめた。


死屍累々。正にそんな言葉がしっくりくる。


骸が山を作り、烏(からす)がその肉をついばむ。
緑であったはずの大地は赤黒く染まっていた。


後に『紅葉平野の乱』と呼ばれる戦である。


━まだ続いているのか。


遠くから、絶叫と剣撃の音。時には銃声も聞こえてくる。


夜太は更に観察を続けていった。

━あの旗印は幕府。もう一つはどこだ?見覚えがない旗印だな。
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