君が為に日は昇る
男は決して不用意に打ち込んだ訳ではなかった。


一足で間合いを詰め、上段から振り下ろした斬撃。
凡百の剣士であれば受け止めることが精一杯であろう。


その一撃を夜太は体を半身にすることで回避。
と、同時に男の胴の辺りを横薙ぎに一閃。


切れ味の鋭い刀が一瞬で男の生命を刈り取っていった。


一切無駄の無い。剣に生きるものであるならば誰もが感嘆したであろうその動きは。


まるで二年前と比べても遜色なく、むしろその剣才を更に開花させているように見えた。


あれほど身の丈にあっていなかった源五郎の愛刀。


今ではしっくりと体に馴染み、彼の為に鍛えられたのかと思う程に様になっていた。


「くっ…!」


残った男。
連携の定石通り、一人が崩し一人が攻める。


それを実行しようとしていたのだろう。彼は既に息絶え崩れ落ちる男のすぐ後ろにいた。


前衛が倒れ、躊躇した彼は足をその場で止めてしまう。


その判断が彼を死地へと誘った。


そこはまだ鬼の間合いなのだから。


「か…ふ…!?」


体を一杯に伸ばした片手での刺突。それが男の胸部を貫き通していた。
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