君が為に日は昇る
『三、華街の片隅』
その昔、この国には『侍』と呼ばれる人間達がいた。
ある者は名誉の為、ある者は国の為、ある者は誰かの為に。刀を振るい、そして滅んでいった。
これは、誰も知らない『侍』達の物語。




 ━君が為に日は登る━





国の西方。そこには広大な海に臨む一大商業都市がある。


昼は発達した海路による輸出入。
夜は『遊郭』と呼ばれる風俗業や賭博。


昼夜で全く別の顔を持つ街。


『富水(ふすい)』


常に喧騒と雑踏に包まれるこの街はその華やかさから『華街』とも言われ、多くの人々が暮らしている。


そしてその人の多さと入り組んだ地形。


それは脛に傷を持つ者や反幕府勢力にとって絶好の隠れ家となっており、小競り合いにも事かかない。





初夏の陽射しが眩しい表通り。商店が軒を連ねる中、一軒の茶店の店先に二人の男が座っている。


一人は目の細い優男。後ろに流した黒髪で顔はまだ二十前半くらいだろうか。若々しい色艶をしている。


もう一人は少年とも青年ともとれる端正な顔立ちの男。短く整えた黒髪で無愛想に目を閉じている。
< 39 / 211 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop