君が為に日は昇る
若くして源五郎の右腕となった夜太に、周囲は嫉妬や畏れの目を向けるようになる。
鬼が捨てた子供。『捨鬼』と名付けて。


「どうだ?うめぇだろ?」


女衆が運んで来た料理に二人で箸をつけながら夜太は黙って頷く。


夜太は寡黙な少年だった。捨て子だった事が起因して感情表現が乏しい。


無表情で人を斬る様はさらに周囲を遠ざけた。


だが育ての親の源五郎と、もう一人にだけは心を見せた。


「あ、刀は手入れしたかよ?またすぐに仕事がある。忘れんじゃねぇぞ!」


実際、源五郎はとにかく世話を焼いた。刀の手入れに始まり、着物は洗濯したか、体は洗ったか、何か足りないものはあるかなど。口煩く聞いてくる。


夜太はいつもそれを聞いて嬉しげに頷くのだ。まるで本当の父と話しているかのように。


「お父さん!また小言ばっかり!お祝いの席でしょ?本当に口煩いんだから!」


『源五郎の娘・お雪』


もう一人が源五郎の実の娘であるお雪である。


彼女がこうやって世話焼きの源五郎をたしなめては夜太に助け舟を出すのだ。


当時お雪は十歳。年が近いことも夜太が心を開いた一つ、要因だったのかもしれない。
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